熊本県八代市の「HAPPY TIME DIRECTION」は道路を挟んで店舗が2つある。
片方は本店で日本の家具が並び、もう一つの「Arv」（写真5枚目）は北欧家具が並ぶ。
店内は白壁に光が廻り、幸せな暮らしをイメージできる空間が広がる。

しかし、外に出ると田んぼと畑が広がっている。
そこになぜ、こんなセンスの良い家具店が現れたのだろうか？

「ここら辺にもたくさん家具屋があったんですよ。でも段々と減っていきました。」
そう語るのは有限会社丸三家具の3代目、野口貴生さん。
「以前は大川の安いものを売っていて、経営も良くなかったんです。」
70年ほど前に祖父が創業し、箪笥やちゃぶ台を製造販売していたそうだ。

前職で経営コンサルタントをしていた野口さんは土日だけお店の手伝いを始め、本店の前面スペースの床や壁を新しくし、蛍光灯をスポットライトに変え、最低限の改装をした。
「仕入れはネットで調べてメーカーに電話しましたが、どこのメーカー扱ってますか？と聞かれるのです。」
古いものしか扱っていないのでほぼ断られたそうだ。

「メーカーもブランディングを気にされますものね。」と野口さん。
なんだか耳が痛い。

野口さんは仕方がないので改装した写真をメールで送って、なんとか信用してもらい、徐々に仕入れを増やしていく。

そうして1年後に正式に経営を始めるが、数日後、熊本地震が起こる。
「1年間、復興が進みませんでした。」

前面だけだった改装は徐々にスペースを広げ、今はほとんどがモダンなインテリアへと生まれ変わった。
「元は製造でしたから、職人が大工もできるんです。」
なんと、床や壁、天井などは業者を入れず、自分達で施工しているそうだ。

「家の中は内装も家具も、小物もトータルで提案したいんです。マンションのリノベーショや美容室、ホテルまでやっています。」

そんな店内にはハープチェアとブランチチェアが置かれている。
「背にこんなに厚みがあるのに曲がっていて美しい。特徴的なのでお客様に話がしやすいです。」
ハープは野口さんが選んだ。

ブランチチェアは奥さんのセレクト。
デザインや設計の方とお付き合いも多いため、他にないデザインをその方たちへ見せたくて選んだそうだ。
「みなさん、すごい技術力とデザインだと驚かれます。」

奥まで続く広い店内は、さらに手を加えて良くしたいそうだ。
経営から始まり家具販売、インテリアの設計から施工まで。
貴生さんの「幸せな時間」は続いていく。

そこにイストクの家具が置かれ、使っていただく方々との「幸せな時間」も拡がることを願った。

取材・文　山田佳一朗（KAICHI DESIGN）